風が、止まった。
それは何かの予兆に感じられた。そう、すべてが流転するまえの静寂のように。
神無月夕香里は愛用のドルフィン號の上で、目を細めサバイバルキットのレーションを口にした。
(何や?風が止まりよった)
自然までもが、このオリュンポスの先行きを見守っているというのだろうか。まさか!
そうだとして、自分に何ができる?
(出来ることを、やるまでやないか)
と、思ったものの、何が出来るのかまだわからない。ともかくは先日襲撃されたドルフィン便事務所を守るだけだ。
一度目はしてやられたが、二度目を許すほど自分は寛大ではない。もちろん、事務所の主である虎杖詩絵羅もしかり、だ。
かすかな波にゆらゆらと揺れる水上バイクには、夜間対策用の暗視ゴーグルと、やんごとなき処から拝借してきた集音マイクが装備されている。そして、戦闘用のブーメランとボウガン。防犯ボールにハロゲンランプ。サバイバルキット。
完璧なのに、不安になるのは何故だろう。
しかし何が有ってもドルフィン便を失う訳にはいかない。
先日まで実習船に居たため、襲撃騒ぎをしったのはこちらに戻ってきてからだった。
その間に自分が出来た事といえば、ちらし配りと、船内で仲良くなった世良の背中にドルフィン便の特大ステッカーを張り付けて、宣伝行為をさせた事ぐらいだ。
その間に、襲撃騒ぎが起こっていたと知った時は悔しさに涙が出そうだった。
(ともかく、詩絵羅は酒飲み友達としても、煙草仲間としてもエエ奴やしな)
不安を振り払うように、冗談めかせた理由を自分に言い聞かせて肩をすくめた。
何も不安になる事などないのだ、と。

最新鋭のカラープリンタから、密度の高い写真画像が吐き出される。
叶野水月が夏川幹に頼んで作ってもらった、あのデータカード配達を依頼してきた男のモンタージュである。
「こんなものですが。大丈夫ですか?」
いつも通りの、幹らしい丁寧な口調だがわずかな緊張に満ちているのは気のせいではない。
白衣のひだの間からみえる、ジーンズのベルトにはエアガンが二丁無造作にさしこまれている。
時折目を向ける入り口には、赤外線と黒い意図の警報トラップを仕掛け、どこから連れ込んだのかシェパードのような雑種の犬まで待機している。
(妙な陰謀に巻き込まれましたね)
事件が一段落ついた時に、幹が言った一言は全員の気持ちを代弁していた。
(今更バイトをやめても意味がないし、最後まで付き合います。そうしないと抜けられないようですから)
襲われた、という事は、ここにいるメンバーの情報もとっくに知れ渡っているという事なのだろう。
ドルフィン便を辞めたから、データカードの事はしりません。なんて、図々しい言い訳を聞いてくれるほど世間は甘くない。
それに……。
ここで辞めたら、夢から遠ざかってしまう気がするのだ。
亡き祖父のような大型船の船長になるという夢から遠ざかり、敗残者としてすごすごと本国に戻る羽目になるような、そんな予感が常に幹にまとわりついていた。
「ん。イイ出来じゃない。さっすがぁミキミキコンビ☆」
周囲の緊張を無理矢理蹴散らすように、早瀬流風が明るくいった。
かかとで軽やかに床を蹴りつけると、水着の中に押し込められた豊かな胸が揺れた。
「ミキミキコンビ?」
「夏川のミッキーと、叶野のミッキーでミキミキコンビ☆」
怪訝な水月の問いに、きゃはっ、と笑いながら答える。
「却下」
「やめてください」
男性二人が呆れながら言うが、流風の耳には届いてはいない。
「それはそうと、やっぱりあの写真は海藤さんっぽいよねぇ」
女性の特権、急激に話題を屈折させて流風が言うと、水月は腕を組んだ。
詩絵羅は「海藤瑠璃とやらが、データカードを渡すにふさわしい人物かどうか、わからないからねぇ。『御配達』は結構よろしいけど『誤配達』は勘弁して欲しいねェ」と言い、未だに海藤にデータカードを渡すことを迷っているのだが、流風は自分の確信を簡単に投げ捨てる気にはなれなかった。
「依頼人も気になりますね。あの廃棄所の死体だったとして」
「どういう死に方をしたのかが興味あるよな……」
被害者の写真の入手方法については、全く考えてない。自治警察に行って「知り合いかも……」と言えば手がかり位得られるだろうと気軽に考えている。夏川は被害者の生体検査をした坂巻医学博士の線をたぐって見るようなのだが。
「柏山実朝氏はトラコの関係者のようですね。この人に関しても調査したいですけど。トラコにはツテがないし……地道にネットでトラコの社内報や会報をあさったのですが」
わかったのはただ一つ、トラコは今の学園内の騒ぎなどまるで全く知らない、否、「騒ぎなど全く起こってない」かのように振る舞っている。ただそれだけだ。
(騒ぎが本格化したら、トラコにとって都合が悪いんでしょうかね?)
もっとも、これ以上の「騒ぎの本格化」というものが有るのなら、という仮定だが。
「とりあえず、行くか。自治警察に」
水月の言葉に幹と流風はうなずいた。考えることが多いなら、その一つ一つをツブしていくしかないのだ。
例えソレが気の遠くなるような作業だとしても。

さて、三人がデコボコなりにも、それなりの素人探偵ぶりを十分に発揮している間、詩絵羅は推敲に推敲を重ねたメールを読み返していた。
(予想通りやばいのが食いついたね。我ながら女らしい反応しか出来ないのには苦笑しちまったけど)
キーボードを操作しながら、口の端を二ミリだけ持ち上げる。
しかし自分の中にある女らしさを嘆こうとは思わない。実際女なのは変えようがないのだし、自分は特殊部隊の女軍曹でもない。
それに、自分には何者にも負けない、鋭く貴重な武器があった。
――知恵だ。
そこで詩絵羅は「ささやかなお届け依頼品を狙った覆面強盗?!」と銘を打って、マスコミと警察に事の詳細をリークした。
こうしておけば、襲撃されにくくなる。と考えたからだ。
だが、効果の方はおっつかない。あらゆる品物が届くドルフィン便なら、高価な品物を狙った覆面強盗が入るのも考えられてしかるべきであって、写真ごときを狙っているはずがない。と匿名の書き込みがなされ、あるいは噂として意図しない方向に尾鰭を付け加えられ、そこに自治警察の「到着した積み荷にあった、最新の研究機材、あるいは未発表論文を狙った産業スパイ」という公式発表がかさなったのだ。
それでも詩絵羅はすごすごと引き下がろうと思わなかった。否、逆にやってやろうじゃァないか。という闘志がわき上がってきた。
(コケにされたまま終わるのは、あたしらしくないからね)
生ぬるくなったビールを飲んで、今日の配送予定を見る。
騒ぎが怖いのか、バイトが数人辞め、また、防犯対策強化として社員を常に二人一組の「バディ」として行動させている為、採算が悪いことこの上無い。長く続けば、ドルフィン便自体が倒れ込みかねない。
倒れる前に、倒せ。だ。
夏川、水月、早瀬のデコボコバイトコンビが、簿給でこき使えるウチは、まだまだイケる。
もっとも、あの三人にしてみればここまで首を突っ込んだ以上、退くことは出来ない。という処だろうが。
あの三人に、詩絵羅が夕香里に対して払った特別報酬(はっきり言って、オリュンポスでは年に一度数本しか入荷されない、ボルドーの本物の、二五年もののワイン)を知ったら、即ストライキを起こされてしまうだろう。
ぺろり、と唇をなめてマウスを操作する。
ネットや大学の資料室を片っ端から検索する。柏山なにがしの社員旅行の写真でもいい、新聞記事でもいい。それらの断片を探しながら電子の海を渡る。
と、違和感を感じた。
何もおかしいモノはない。
いつも通りの仕事部屋、朝運び込まれた実験資材の箱。
不審な人物はいないし、いれば夏川が仕掛けた赤外線のトラップにひっかかるし、あの(頼るになるかどうかわからないシェパードらしい雑種の犬)が動かないのも妙だ。
だが、感じる。首の後ろにちりちりとした何かを。
ノートパソコンの電源をおとし、蓋を閉じて手をその上に押しつける。
過剰労働の不平不満だというように、パソコンからの放熱が手のひらをじっとりと汗ばませる。
「誰かいるのかい!」
意を決して叫んだ時、研究資材がはいっている筈の段ボールが、がさり、と動いた。

自治警察のロビーで、三人はソファーにすわって、呆然と受付嬢と叶野水月との攻防戦を思い出していた。
(あのー、あの変死体、俺の知り合いかもしれないんです。写真を見せていただけますか?)
(はい。どのようなお知りあいでしょう?)
(えーと、そのー)
(お知り合いなら、当然家族構成ぐらいはご存じですわよね?ああ、職場の部署でもかまいませんが)
(…………(汗))
(ちなみにあなたは、本日78人目の「知り合いかもしれない」方ですわ)
と、満面の笑みでトドメを刺されては、手も足もでなかった。
ちなみに坂巻医学博士の方は、生前ではなく、死亡後の写真……黒く晴れ上がった皮膚の変死体一枚……を譲ってもらえただけで、肝心の博士には会えなかった。
どこかに出張しているらしい。
「なんだ、君たちまだいたのか、何度もいうが一般人が探偵の真似事をして被害者のプライバシーに立ち入るのは人権に……」
自治警察総務の課長が、疎ましげにいいかけて口をつぐんだ。
不審に思って視線を追うと、流風のウィンドブレイカーにあるイルカのマークで止まっていた。
「……あのー、何か?」
「い、いや、何でもない。それより仕事の邪魔だよ帰りたまえ」

「結局、なぁんもわからなかったって事ですよねぇぇえ」
恨みがましい口調でいいながら、ジャガイモを煮崩さないように慎重に肉じゃがの仕上げを行う。
夜間本部警備のため、幹と水月と流風は事務所にとまりこんでいるのだ。
幸い簡単な水道施設はあったので、あとはキャンプ用の固形燃料とカセットコンロでもあれば、十分に暖かいご飯をたべられる。
「夕香里さんも来ればいいのに」
と、なにげに水月の皿ににんじんが多くなるように、肉じゃがをよそいながら流風はいう。
データカードが一体なんなのか流風はわかってない。
ともあれ、瑠璃に接触しようと想ったのだが、肝心の瑠璃が行方不明というのだから話にならない。
単に迷子になっているだけなのか、それとも……ドルフィン便のように何事かに巻き込まれたのか。
どちらにしても流風は安心していた。
亡くなった父親の話を聞かなくて済むからだ。あのデータカードが彼女のものなのかどうかは、彼女の幼い頃の写真と照らし合わせるのが一番だ。
しかし、そうなると会話の糸口は幼い頃の家族の思い出ぐらいしかない。
今は二度ととりもどせない想い出の時間だ。
「夕香里は水上。まあ、それなりの特別手当は払ってるからね、多少辛くてもキバってやってくれるよ」
「特別手当ですか……まあ、見当はつきますがね」
目の前で、ビールを消費し続けるむさ苦しい男を呆れた顔で眺めながら、幹がいう。
「お、おまえデカイ図体して、にんじんが嫌いなのか。そーか、そーか。じゃ、俺が遠慮なく食ってやろう」
と、無精ひげをはやした顔に満面の笑みを浮かべるが早いか、水月の皿から、にんじんどころかジャガイモと肉まで奪い、口の中に放り込む。
「くぁー。美味いね、あんたいい嫁さんになれるなぁ。肉じゃがと飯とビール。いい。非常にいい」
通勤につかれたサラリーマンの様な事をいう。
実際男はくたびれたワイシャツに、だらしなくゆるめたネクタイを垂らしていた。が、その汚れぶりときたらなかった。
「さあ、腹も満たされたし、そろそろなんでアンタがドルフィン便に集められた荷物の中に入っていたのか、教えて貰おうじゃァないか。森瀬さん」
詩絵羅が顔をしかめながら、ミュールのかかとで床を蹴る。と、かつんと硬質的な音が室内に響いた。
森瀬は、ち、と舌打ちするとふてくされたように、詩絵羅から顔をそらして天井を見ていたが、観念したように口を開いた。
「まあ、どれから話すっちゃ、どれから話してもいいんだが。難民船、MV、第四実験室。よりどりみどりだ」
「ペーペー新聞記者が追いかけるにしては、誇大妄想気味なネタが多いねぇ。だいたい難民船やMVなんて面白くもないし、ネタとしてはもう終わってンだろ」
ぐい、とビールを一息に喉に流し込みながら、詩絵羅が横目で森瀬をにらむ。
もったいぶった言葉遊びをしている暇はない。
「第四実験室って……開かずの扉の花子さんみたいな?」
水月が残り少なくなった肉じゃがの皿を守りながら問いかけると、森瀬は、かみしめた爪楊枝を上下に動かしながら笑った。
「トライデントコーポレーションの四番目の実験室さ……何でも構成している研究者の素性は研究者同士すら知らないってんだから妙な話だ。第一……」
とつぶやいて、ふと言葉を止めた。
「何?」
幹が言葉を続けようとしたが、いきなり森瀬が襲いかかり、その口を手のひらで塞ぐ。
「静かにしろ!」
「……え?」
とたん、外周通路側の窓がわれ、小さなケースが投げ込まれた。
ち。ち。ち。
心臓のように、いや、心臓より規則正しいタイミングで何かが動いている。
それは随分前に教授から見せて貰った旧式の時計に良く似ていて……。
「爆弾……」
モデルガンとはいえ、銃器に詳しい幹がつぶやいた。
「爆弾?どこに……」
「馬鹿!逃げるんだよ」
机の上のパソコンをひっつかみ、電源コードを引きちぎる勢いで抱え込むと、詩絵羅は森瀬ときょとん、としている叶野水月の尻を蹴り飛ばす。
四人が転がり出るようにして、外周通路へ飛び出した。
刹那。
赤い光が見えた。
そして、爆音。
熱風が押し寄せ、音響によって歪んだ空気があたりを振るわせる。
たまらずバランスを崩した流風が、外周通路の柵を越えて吹き飛ばされそうになる。
(もう駄目!落ちる!)
夜の海に落ちればどうなるか、知らないほど馬鹿ではない。
例え夕香里が裏に待機しているとはいっても危険な事には変わりない。
たまらず目を閉じた瞬間、大きな手が手首をひっつかみ、強引に彼女を死の翼を広げる、闇色の海から、外周通路へと引き戻した。
「大丈夫か!早瀬さん」
背後に燃え上がる炎が、自分の背後にまで迫っていて、今にも来ているドルフィン便のパーカーに燃え移りそうなのに、水月はしっかりと流風をだきよせた。
夜間警備をすると決まってから、自分はともかく流風だけは守らなければと考えていたのだ。
「逃がしません!」
ちちち、と素早く三つ舌打ちをして、幹は白衣の裾をひらめかせ、腰からエアガンをだして狙いを定める。
プラスチックが当たる音がして、外周通路の曲がり角で男がつんのめって倒れた。
左足に見事にヒットしたようだ。
男はよろめきながら曲がり角を曲がる。と、入れ違いになるようにして自治警察があらわれた。
「助かりました!その角を曲がって犯人が!」
「……何を言ってるんだ!私たちが来た道には「誰もいなかった」ぞ!」
「え?」
用意されたセリフをそのまま暗唱するような、自治警察の男の言葉に、幹は凍り付く。
いくら夜とはいえ、外周通路の明かりは人を識別出来る程度にはあかるい。
何より、ここいら100mの間には曲がり角は一つしか無いのだ。
――まさか。
ぞくり、と背筋をはい上がってきた感覚に呆然とする幹に、自治警察は無情に言い放った。
「爆発現場は危ないから、我々の指示にしたがって避難しなさい」と。

陸上では自治警察によって妨害されたが、水上の夕香里は完全に「予測範囲外」にあったようだ。
驚く程あっけなく、角を曲がった男の追跡に成功していた。
ローギアに入れて消音モードにしているため、スピードこそは出せなかったが、それでも、足を負傷した男を追うのには十分だった。
途中何度か角をまがられ、内部の方へ逃げられたが、宅配時につちかった完璧な方向感覚で、相手の行く先々に回り込み、待機することに成功した。
ブーメランで攻撃し、防犯ボールを投げつける事も可能だったろうが、幹を妨害した自治警察の態度をみれば、それが無意味な事に終わるのは簡単に予測できた。
男は周囲を気にして、ある場所へ向かってまっすぐに歩き続けていた。
今、強力ランプで照らすべきだ。と機会をうかがっていた夕香里はライトのスイッチに指をそえ……結局照らすことはできなかった。
(――トライデントプリンセスホテル?!)
驚きに手から力が抜け、ライトが波間に沈んでいく。
「……怪しい人間が、入れるところじゃあらへんな」
スコープを使い、男の行方を追う。
と、男が乗ったエレベーターは最上階の一つ下で止まった。
(あそこはトライデントUNを一望出来るスイートルームやった筈や)
そんな場所を利用できる人間が……なぜドルフィン便を襲ったのか。
謎解きをするには、まだピースが足りない。

森瀬と詩絵羅は外周通路を振り向きもせずに走っていた。
これでは、被害者ではなく、爆破犯人と間違われても仕方がない。
ようやく自治警察らしき人間が居ない場所まできた。
そこは、今は使われてない無人の研究室だった。
ポケットから鍵をとりだして、森瀬が転がり込む。
「あんたらは、一歩遅かったんだよ。そのデータの内容なんざぁ。とっくに水面下でリークされている。情報を流したく無かった相手は、もう、あんたらをつけねらっても意味が無いって見切りつけたのさ」
「だとしたら、今日の爆発は何が目的だったんだろうねェ。気晴らしの花火にしちゃでかすぎるよ。ただ、こすからい知恵を持つネズミをいぶし出すには、ちょうどいいかもしれないがネェ」
剣呑な光を瞳にやどし、詩絵羅が森瀬を一瞥する。
ドルフィン便に用がない、しかし爆破された、なら目的はドルフィン便以外のモノだ。
「見せ金だけちらつかせといて、事務所を爆破させておいて、とんずらさせて上げるほど、あたしはお人好しでないよ」
「……ち、怖い姉さんだ」
そういって、森瀬はもう一度、第四の研究室なんだよ、とつぶやいて布のかけられた機械を蹴り飛ばした。
その言葉がキーワードになってはいるのだろうが、その鍵が「はまる」扉がみつけられない、といった調子だ。
研究室の中は、倉庫代わりに使っていたのか、研究装置が山のように処狭しと詰め込んであり、人が入ることを無言で拒絶していた。
(――そういえば)
研究装置、という符号が頭の中にかちり、と収まった。
そういえば、バイオハザード実験に使う、ドラフトチャンバーが配達品としてアメリカから届けられた事があった。
多分何かの間違いで事務局ではなくドルフィン便に来たのだろうが。
その時、ふと気づいたのだ。
あの研究室に入れるには大きすぎる。一体どうやって搬入するのだ。と。
しかし、その後、問題の研究室に行った時ドラフトチャンバーは存在しなかった。
否、その研究室に存在する事自体おかしかったのだ。
そこは医学や生物学とは全く関係ない研究をおこなっていたのだから。
それは一体どこの研究室だったのか……。
確か。
「ジェレミー先生がいたね」
詩絵羅のつぶやきに、森瀬が怪訝な顔をしてみせた。
大きな嵐が、吹き荒れようとしていた。
事務所を吹っ飛ばすより、大きな……下手したら、ここの存在そのものを吹きとばしかねない嵐が。
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