シーン1:

「みゃーこたち2人だけのようね」
国際海洋大学専用港『フォローウィンド』でゴミ袋を片手にいたのは、日向美也子と滝 智己だった。曜日は日曜日の時間は朝8時。
お話は数日前に戻る。

学校のBBSに次のようなお知らせがあった。

みゃーこだよ☆
えとね、お知らせー。
きたる次の日曜日、学園周辺のフィールドワーク・清掃活動を行いたいと思います。
人魚さんとか、環境のこととか、遺跡のこととかね。
そんなの置いておいて、お弁当持ってオリエンテーリング、って人も大歓迎ー。
日曜日の朝8時に海洋博物館前で、麦わら帽子を被って立ってるわたしが目印です。
みんなもお弁当とゴミ袋を持って、どんどん参加してね☆
待ってるからー!

[Re.1] 滝 智己> 参加しま〜っす。友達と一緒にね☆みんなで町をきれいにしましょ〜☆いちにちいちぜ〜ん!
「みんな、なってないんだから。海洋環境の第一歩は浜の掃除! これにかぎるっていうのに」
「そうだねぇー」
「智己の友達もくるんじゃなかった?」
「うん、コリーンちゃんと、雅美ちゃん」
「コリーンって、あの教授で博士の?」
「うん」
「コリーンって、確か教授会の新人獲得の規制委員会の委員長さんやってるはずで、とてもじゃないけど日曜日返上で働いてるとおもう、で雅美ちゃんって特待生の菱 雅美?」
「うん」
「特待生って特科コースっていって、日曜日でも講義あるのよ。全部のコースを選択させられるから暇なんて殆ど無いはず」
「そうだったんだ」
「智己、いつ友達になったの?」
「入学式の合格発表の時かなぁ、それ以来あってないけど」
「それは友達いわないとみゃーこは思う……」
「そっか、みゃーちゃんは正しいこという」
「(え、えっと。智己は19歳でみゃーこは15歳、あってるよね!?)」
美也子は少し悩むが、本当に少しだけ悩んで悩むのをやめた。
「ま、気を取り直して、お掃除開始しましょ」

2人はフォローウィンド内の案内図の前に立っていた。
「結構、いりくんでるんだね」
智己は見ながらつぶやく。
「一緒にやるのもいいけど、手分けした方がよさそうだね。結構綺麗な港だし、もしかしたらあんまりゴミないかも」
「じゃあ、2時間後にここに集合で」
「わかった」
こうして美也子と智己は別々の方向へ散った。

1時間後
「あれ?」
美也子の風景は違った物になっていた。
学校の裏手あたりに来てしまっている、足場もかなり悪い。
「あ!」
なにかのビニール袋が引っかかっている。美也子は一つ下の足場へ飛び降りるとビニール袋を引っ張り上げた。
ピチャ
美也子が見たのは水しぶきである、かなり大きい魚かイルカだと思った。
でもそれは今まで見た何よりも異なっていた。

「人魚……?」

立ちつくす美也子の前に『それ』は静かに近寄ってきた。綺麗な少女だ。
だがアクアマリンの水の底にあるのは間違いなく魚の尾ひれである。

「本当にいたんだ……」

すでに美也子の足下まで来ている。
美也子はビックリする訳でもなく、ただそこに立ちすくんでいた。
「は、はじめまして。あたし美也子、みゃーこって呼んでね」
恐怖はなかった、人魚の笑顔に悪意を感じられなかったからだ。
「右手、怪我してるよ?」
美也子が手を伸ばすと、人魚は手を拒んだ。美也子を拒んだのではなく傷に触るなと言っているように思えた。
「あのさ、じゃあ、治療できる所まで行こうよ」
美也子が『フォローウィンド』を指さすが、人魚は悲しそうに首を横に振った。
「あなた話せないの?」
美也子はしゃがみ込んで人魚とコミュニケーションを図る。
そっと人魚の両手が美也子の両頬に触れる、とても冷たい手だった。
「……」
口をパクパクさせている。
「……え?」
次の瞬間だった、人魚は方向を変えて去っていく。
そして振り向くと、左手を右肩に置いて頭を下げたように見えた。
そのまま水しぶきも上げず、人魚は去っていった。

シーン2:

「あ、みゃーちゃん。そっちはどうだった?」
ゴミ袋を一杯にした智己が重い足取りで帰ってきた美也子に声をかけた。
「……」
「みゃーちゃん?」
「(あの時、何て行ってたんだろう)」
美也子は頭の中で必死に思い出そうとしていた。
「(なんだろう『あの人に……伝えて、私を……』)」
美也子は繰り返し頭の中で考える、その声は耳に届いた声では無かった。
頭に直接響いてきて、心臓がバクバク波打ったあの言葉。
「(『あの人に……伝えて、私を……』、あの人って誰だろう)」
美也子は後ろを振り返る。
「ま、そんときゃ何とかなるでしょ!☆」
次の瞬間にはいつもの美也子に戻っていた。
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