シーン1:

人魚発見か?
という報道が流れて、一時は騒然となった学内も盛り上がるどころか、盛り下がりはじめていた。
遺伝子マッピングでは? UMAか?
などの憶測をよそに、非常に冷静な意見が出始めた。
『合成写真の可能性がある』
『撮影した際の他の実習学生の話に食い違いがある』
『遺伝子マッピングでは人魚を作ることは不可能である』
有力どころの研究室が次々に人魚否定の発表したため、人魚を捜す研究室は殆どいなくなってしまった。
調査船出航の予定も暗礁に乗り上げ、徐々に人魚の話も沈静化していった。
しかし、わずかではあるが人魚を捜すということをあきらめていなかった人間もいる。

「ぷっは〜」
海面から出てきたのは瀬名しぶきだった。
独自に人魚を捜すためにロス=ジャルディン島の近くを素潜りで探してた所、その目的も忘れてすっかり素潜りに興じている。
そこにいたのは彼女だけではなかった。
彼は瀬名の前にいきなり現れると、身体を瀬名に預ける。
「おいおい」
そして彼と一緒に瀬名は水の中に沈んだ。
「うひゃあ、やってくれたなこんにゃろ」
彼はイルカだった、名前をGFという。しかし認識票が付いていてもバーコードの為、そのイルカがだれなのか瀬名には分からない。GFは世界基準S級の海洋牧場カウボーイであり、SS級のホーリットの弟にあたる、お土産屋のベスプッチ・マゼランではホーリットについで人気者だ。
数時間、日が沈みかけるまでGFと遊ぶ(遊ばれる)とさすがに疲労が溜まる。
「よし、そろそろ終わりだ。あたいはそろそろ家にかえるぜ。今日はありがとうな」
瀬名はGFの頭をぽんぽんと2回叩き、荷物の置いてある浜へ戻った。
『キュルルー』
「ん?」
瀬名が振り向くと、仰向けに泳ぐGFがひれをパタパタさせていた。
バイバイのつもりらしい、瀬名も手を振った。
大量座礁が発生する約20時間前の事だった。

シーン2:

「人魚がつくれるか? ずいぶんと変なことを聞くんだな……えっと」
「近衛です」
授業が終わった後の教室で話をしていたのは、老教授と近衛浩太だった
「近衛君。まず結論から言えばYESだ、人間には魚の遺伝子がある。考えてみたまえ、我々は母親の胎内の中で、単細胞から分裂し進化の過程を経て産まれてくる。その際には手にヒレもしっぽもあるしな、詳しいことは自分で勉強すればいいが我々は母親の中で人間までの進化をわずか10ヶ月程度でやってるんだ。ただしエラはないからな、人魚も下が魚だろ? 上が魚の人魚は無理だ。とはいえ下半身だけ魚……、というのは色々やっかいな問題が多すぎる。魚は人間を産めないし人間も魚は産めない、だから人間の身体と魚では拒絶がでるはずなんだ、遺伝子マッピングでは出来ないと言っているのはそういう所なんだよ」
近衛はメモを取りながら頷いた。
「だとすると、先生もそうお考えですか?」
「さぁ、海はまだまだ深すぎる。わからん所も多いし、我々の手には絶対に届かない場所もある。そんなところに人魚がいてもいいんじゃななかろうか。今の科学でも作り出すことは理論上可能だが、その理論でいけばきっと東京都並の規模の施設が必要になるだろうな」
老教授は笑いながら茶をすすった。
「そんなに大きいのが必要ですか? だけど海もまだまだ分からない所があるから夢があるんですよね」
「しかし、なんだな」
「はい?」
「本当に、昔の船乗りは人魚とジュゴンを見間違えたのかな?」
「と、いいますと」
「初めて人魚をみた船乗り達は、本当に人魚をみたのかもしれん。後世になってつじつま合わせに海棲ほ乳類に当てはめただけではないのかな?」
「そういう考えも出来ますね」
「なに、いまいったのもタダのつじつま合わせだよ。ただそういう夢を追いかけるのも科学と機械のこの時代でもあっても良いと思うだけだ。幻想を追いかけるのも若者の特権だ、ハインリッヒ・シュリーマンの例もわずかながらあるしな」
老教授は笑いながら教室を後にした。

シーン3(欠番):

シーン4:

「1529年にロスジャルディンが発見された訳でしょう、1999年まで470年もあるんですから、疫病とか大災害なんかでも島民が全滅した可能性だってありますよね」
「でも、ロスジャルディンには生活の跡がまったくないのですわ。450年前といえば日本では松平清康が足助城を攻略して、武田信虎が佐久郡に出兵した時期ですわ、縄文時代の遺跡でさえあるのに、わずか450年ぽっちで何もかも無いというのはおかしいことだとおもいません?」
場所は教室だった。
討論会ロスジャルディン島の原住民はどこに? の会場。
ディベート同好会主催の新入生歓迎の名目上のお祭りであったが、消えた原住民を考えていた2人には本気の討論が交わされている。
ディベート同好会の先輩達は事の成り行きを楽しそうに見ている。しかし一部の生徒は2人の間に、会話は穏和ながらも凄まじい物を感じていた。
漫画にするなら2人の背景はベタフラッシュである。
「遺跡ならあるじゃないですか、海面下ですけど」
「もしそれが原住民の住居跡だとしたら、450年で水面が10m以上も上昇したことになりますわ」
「あの島自体は火山性の島ですから、天災として沈んだかも分かりません」
「でしたらお伺いしますが、原住民が仮にいたとして。生活するための水がありませんわ、ここにロスジャルディン島の地質調査結果がありますけど、真水を出せる地層構造にはなっていませんもの」
「なにもロスジャルディン島は一年中乾燥しているわけでは無いのですから、雨を貯める技術が有れば問題は解決します」
こうして2人の間で固有種、植物植生、あらゆるデーターを持ち寄り集めた物を『いる』『いない』の討論形式で検討した。
時間はおよそ1時間30分。
ディベート同好会の会長は参加者名簿の中から二人の名前、静佳雅人と藤原皐月に赤丸を付けた。こうして数週間、2人はディベート同好会会長の『あの2人は必ず獲得せよ!』の命令を受けた同好会の人間から勧誘の嵐を受けることになる。

「一体、原住民はどこへいったのですかねぇ」
「遺跡があると言うことは、人がいた証拠ですけどそこから全く跡も無くというのは、本当にミステリーですわ」
教室から出た静佳と藤原は、モノレールの駅まで一緒に歩いていた。
「そっちはどうだった?」
モノレール乗り場の前に近衛が立っていた。
「図書館始め全部の資料を集めてみましたが、これという確証はありませんでしたわ」
「そちらは?」
「原住民について調べていたときに、図書館で親切にしていただいた静佳さんです。紹介いたしますわね、こちらがわたくしと同じ海洋文化コースで勉強している近衛さんです」
「初めまして」
「こちらこそ」
近衛と静佳が握手を交わす。
「で、近衛さんは何か分かりましたか?」
「ここじゃなんだから、近くで茶でも飲みながら話そうか」

こうして3人で持ち寄った資料や教授の話をした。
「じゃあ、あなたは原住民と人魚が同じと考えているんですか?」
「はい、突飛もない話しですけど、あの水没した古代遺跡が『水没した』んじゃなくて『もともとそこに建てた』ならって考えたんです。そうすると今回の人魚騒動も新しく出てきたんじゃなくて、あの人魚こそが原住民じゃないかって思ったんです」
静佳の声はゆっくりのほ〜んとした口調ではあるが、その内容には考えるに十分な可能性があった。
「でも、どうしてでしょう?」
皐月はダージリンの香りを楽しみながら口に含んだ。
「原住民がいたと報告はしたのに、なぜそれが人魚だったと報告しなかったんでしょうか?」
「そうだな、船の乗組員は1人だけとは考えられない、当時なら最低10数名いただろう、それだけ人間がいれば功名心から口止めされてても、情報は漏れるはずだしな」
「そうですねぇ〜、とにかく僕はもっとこの件について調べてみます。近衛さんと藤原くんはどうしますか?」
「わたくしは、原住民人魚説に興味がありますわ、図書館に行ってもう一度調べてみますわ。遺跡関連のものでもまた探してみます」
「じゃあ、私はたった1人の目撃者をさがしてみます。船舶工学コース4年の中月浩三くんをね」
「あ、その手もありましたのね」
皐月が手をぽんと叩いた。
3人はそれぞれ喫茶店を出た時は日は傾き海に没した、皐月と家が近いこともあり近衛が送っていく、静佳も家への道を歩いていった。

シーン5:

1人、家の中でPCに向かっていたのは宮前五郎だった。
今日一日、いろんな教授に話を聞いてまわり、人魚をつくりかたや飼い方などを聞いてまわったが教授は取り合ってくれなかった。トライデントコーポレーションともコネが無い以上、これ以上足をつかっての情報集めは限界だった。そして彼の目の前にあるのはトライデントコーポレーションのHPである、ネットの無記名掲示板に情報を流し、返ってくる情報をかき集めた。

>名前:nil
> 人魚を造るのは無理なんじゃないか。トラコみたいにデカイ企業でも
> 実際に造ってなんのメリットがあるかもわからないしな。

>名前:nil
> あの写真は合成、本当はボクが作りました。

>名前:nil
> だったら、自分でトラコ覗けばいいじゃねぇか、人の力ばっかあてに
> してんじゃねぇえぞゴルァ。

>名前:nil
> トラコのSFW破りなら簡単だぴょ〜ん
> http://www098.zo-net.or.uk/archish/deus/magina.html

宮前五郎はそのHPへ跳び、必要なソフトをインストールした。
そしてHPの目の前に来ている。
ダウンロードしたソフトを走らせると、様々な記号がHPへアクセスしていく。

>名前:nil
> ごめん、さっきのHPの攻勢ソフトだけだと逆探されるので、athena/exexe.html
> でイージスの盾を予めインストしておくぴょーん。

全体画面でやっていた五郎はそのメッセージに気が付かない。

>tri Corp.
>>input pass=**********-********
>sac... one moment plz.
>>input personal code=*****-****
>Well come, preservation of public peace the head of a department Mr.ANZAI,
>you need ?
>>data search mermaid or ningyo
> Hit 2, project:1 name:1
>>open name and date, DL..
>name AETERNA ,project MV...................................................

いきなりパソコンがフリーズする。
LCDが異常発光しているのに気が付く。
「逆探か!?」
五郎は慌ててケーブルを切断する。
ダウンロードしたデーターを鞄に放り込み、部屋を出た。PCの中身も全部消去して。

「あ〜、今日は友達の家にとまりこむしかねぇなぁ」
ディスクを懐にしまい込み、星を見つめながら友達の家へとぼとぼ歩いていった。
頭の中は色々な考えがめぐり、彼の予測が確信へ変わっていた。
「(やっぱり、トライデントコーポレーションは何か知っている)」
途中で切断されたが、確認していない内容が途中までダウンロードされているはずである、友達の家で確認するわけにもいかない、学校でもダメだ。
五郎は歩みの速度を上げた。

シーン6:

翌日の朝
「グエンさんはベトナム出身なんですか?」
「ソーヨ、たくさん兄弟の3番目デス」
輝月王里とグエン・ホー・ズアンがボートの上でスキューバーの道具を装着しながら話しを続ける。
彼らがいるのは実習用のトライデントとロスジャルディン島の間にある養殖簗(やな)である、養殖簗は海洋牧場とは異なり、小規模で基礎工事などの重工事を必要としない、そして比較的低予算でできる為、海洋環境に配慮しながら海産資源を増やす実験用としてこの海域に沈めてある。
2人がここにいる理由はスキューバーの訓練のためとなっている。
しかし目的は人魚が撮影されたこの海域の調査だった。
時間は2時間しかない。

そして撮影された写真には目印となる物が無かった為、結局は重要な物も見つからず時間だけが過ぎていき、太陽がほぼ真上にきてしまった。
帰りのボートの中。
「グエンさんはなんで人魚を追いかけるんですか?」
「OH! よくきいてくれましたネー、ワタシ、カッパよばれてます、みんなから。だからカッパと人魚どっちがツヨイか会ってたしかめたかったデス」
「あはは、どっちがツヨイって、すごい理由だね」
「オーリ、ようやくワラッタネ、すっごいチャーミング。イイネッ!」
「え?」
「オーリ、ここに来るまで、笑っていたけど、わらってなかった、ズット」
「……この学校は勘のいい人が多くてやだなぁ……」
「オーリ、この学校きらい? なんでキタ?」
「違うんだ、そういうのじゃない。僕だって入りたくて仕方なかった学校なんだよ、トライデントUNは。ここなら……」
「オーリ、言いたくないなら言わない」
グエンは笑顔で人差し指を自分のくちびるにあてる。
「いいんだよ、僕は強くなりたくて来たんだ、でもここの人たちは優しすぎて甘えちゃうんだよね、それじゃあダメなんだよ。この痕もね、簡単に治せちゃうんだ本当は、僕の本当のお父さんとお母さんは死んじゃったって聞かされた、でも死んだって証拠はどこにもなかった。だからどこかできっと生きている、それを励みに僕は生き抜いた、この痕はその時頑張った僕の勇気の証。だけどここの海と風は本当に優しいんだよ……、今までの場所と全然違いすぎて、どんどん僕が変わっていき過ぎる様な気がしてさ」
「……」
グエンはずっと王里の話を聞いていた。
「ゴメン、自分のことばかり」
「キニシナイネ、オーリ。自分の気持ちオープンにする、大切なこと、海は頑張った人にすっごーく優しい、このオリュンポスのカッパが保障するネ!」
「ありがとう、グエンさん」
「まずは人魚探すデスヨ、もっと別なホーから、アプローチするネ」

シーン7:

「すみません、中月浩三さんいますか?」
「中月なら今、外洋実習中で1ヶ月は帰ってこないよ」
「4年生で外洋実習ですか?」
翌日の昼休み、近衛は中月がいりたびるという研究室を訪れた。
「まぁ、今回の件があるからきっとその関係なんだろうね」
「(沈静化を待ってるのか?)」
「そうだ、奴からこんなの預かっててね」
そういって渡されたのはA4サイズの封筒だった。
「私にですか?」
「あ、いや。最初に奴を訪ねてきた奴に渡してくれってさ。だれでも良かったみたいだけど」
近衛は封筒を受け取ると食堂に戻った。
「近衛さん、こんにちは。どうしたんですか、難しい顔をなさってますわよ」
声をかけてきたのは皐月だった。手にはご飯だけを持っている、オカズは自作の物らしい。
「こんにちは、藤原くん。できたら放課後に静佳くんも呼んできてくれないかな?」
「承知いたしましたわ」
皐月はにっこり微笑んで頭をさげると、他の女友達と食堂の奥へ向かった。

シーン8:

「あの、杉崎先生、なにか……お手伝い……できることありませんか?」
「また人魚の話かい? ボクの管理する牧場にでてきたって話しなら、この前したはずだけど?」
杉崎の身長は高い、色は白くていつも微笑んでいる、髪の毛は長くてすこし茶色かかった黒だった。それに対して話しかけてきた少女、スセリ・シンクレアの身長は遙かに低い為、話すとき杉崎は少ししゃがむ。
「ふむ……、無いことはないが」
その時、スセリおなかが鳴った。
「手伝って貰う前に、お昼ご飯にしよう。実はうちの嫁がはりきってお弁当をつくってしまってね、ボク1人では食べきれなくて。その手伝いをまずやってほしいな」
杉崎はスセリの頭に手を置いた後、肩に手を置いた。
「あ……あの」
「勿論その後、書庫の整理の手伝いをお願いするよ。放課後にね、まずは食べることを優先しよう。ボクはいま腹ぺこなんだ」
「……はい」
杉崎はそっとスセリの手を引く。
誰かがそこにいたらスセリは逃げていたかも知れない。
極度の対人恐怖症。
これがスセリに課せられた試練の名前だった、何故なのか前の学校のカウンセラーの前でさえ口にしたことはない。
今は少し事情が異なっていた。
スセリの覚えてない無い両親、それに杉崎を重ね合わせていた。甘えることを知らずに育ったために父親の香りのする杉崎に対して好意を抱いていたが、それは本来ならばもっと幼児期に体験するはずの精神的成長課程である。
一方の杉崎、杉崎 終は変わり者で有名だった。
あるゼミの時だ。
彼の学生の時、海洋牧場について尋ねられた、彼は海洋牧場のイルカを撫でながらこういった。
「どうです『美味しそう』でしょ?」
笑顔でイルカを撫でる彼の表情と口調に、きいた教授は凍った、そして後悔した。
彼は愛情を持って生き物を育て、笑顔で市場に送り出せる人間だったのだ。
水産資源というコースは彼にとって天職であったが、研究室ではどこも彼を引き取らず、1年遅れでトライデントコーポレーションに就職、出向という形で大学の海洋牧場の管理をしている。

弁当はサンドイッチだった。

確かに量が半端ではない、杉崎はスセリが来るのを予測していた。
毎日ではないものの、きちんと3日毎に来るため嫁に頼んで置いたのだ。嫁は、ほんわかした人で海洋イラストレーターの肩書きを持ちながら主婦をこなし、今回の弁当の事もよろこんで作っていたのを杉崎は思いだした。

「人魚が海流に乗ってどこかにいく可能性か」
杉崎は紅茶を飲みながら話す。
「鯨は、水中の波に乗って沈むときは尾を上に、上がるときは尾を下にして移動してる。海に住むなら自然にはきっと逆らわない、だから人魚もきっと」
スセリは話しながら今まで集めた資料を開き、メモを取る。
「とも限らないな、自然に逆らわない生き方は海棲ほ乳類共通の方法だけど、生き物はただ潮の流れにだけ乗って移動してるわけじゃない。何か意思があれば、その目的があれば潮に逆らって移動することもあり得る。鮭は本能で川を上る、ウナギもね。人魚を今までの枠で考えることは出来ないとボクはおもうよ」
場所は誰も来ない、学内地図にもないテラスだ。ここからは海洋牧場が一望に出来るがこの場所を知っているのは杉崎だけで彼のエスケープの場所にも使われている。
スセリの考えはこうだった。
人魚が単独で行動していること、生存可能水深を特定しオリュンポスの潮流から消失ポイントからの人魚の動きを予測する。
しかし、いままで考えていた事を否定するには十分な杉崎の言葉にスセリは落ち込む。
「でもボクは信じてますよ、人魚を」
「!?」
「スセリさんはもっと視野を広げる必要がありますね、誰かと一緒に行動する。自分だけではどうしても視野が狭くなります、もっと自分から心を開いて近づいていかなければ、スセリさんもひとりぼっちの人魚と同じになりますよ。きっと彼女も寂しいんじゃないでしょうか、今も誰かを求めてさまよっているのかも知れません」
杉崎がスセリの頭を撫でる。
子供扱いされるのは好きではなかった、でも杉崎の手は大きくて好きだった。

シーン9:

近衛、静佳、藤原。
この3人が封筒を開ける。
中には写真が1枚と手紙だった、殴り書きだ。

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この手紙を見た人へ
僕はきっと、このあと大学には帰ってこないだろう。
だから、君にこの写真と手紙を託す。
これをみて、君たちがどのように考え、どのようにしようと
それは、君たちが選んだことだ。
破り捨てても、ネットに流してもかまわない。
でも、これだけは伝えておく。
『あの島で 僕は、確かに「人魚」を見たんだ――』

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一緒にあった写真を見る。
それはニュースで公表されたようなぼやけた写真じゃない。
くっきりと人魚の姿が映っていた。

そして、それは確かに微笑んでいた。

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